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東京高等裁判所 平成6年(く)203号 決定 1994年8月10日

少年 S・I(昭50.3.23生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、附添人○○が作成した抗告申立書に記載されたとおりであって、要するに、少年を中等少年院に送致した原決定の処分は著しく不当である、というのである(なお、抗告申立書には、抗告の理由として、「短期間の少年院送致を希望します。」とあり、原決定が短期処遇勧告をしなかった点が不当であるとするかのようなところもあるが、そうであれば適法な抗告理由に当たらない。)。

そこで、記録を調査して検討するに、原決定が【処遇等】として認定、説示するところは正当として是認することができ、少年を中等少年院に送致した原決定の処分が不当であるとは認められない。

すなわち、記録によると、本件は、少年が、いずれも、その所属する暴走族の少年らと共謀の上、(1)数人共同して、車両を損壊し、被害者3名に対し暴行を加え、うち2名に全治約1週間を要する傷害を負わせ、(2)改造車を運転していた被害者に暴行を加え、加療約6週間を要する傷害を負わせ、(3)右被害者を普通乗用自動車の後部トランク内に押し込み、約20分間にわたり同車を疾走させて、不法に監禁したという事案であるが、いずれも、暴走族に所属する少年らが、その縄張りを荒らされたなどとして、集団で暴行等に及んだもので、罪質、動機、態様、結果はいずれも極めて悪質である。少年は、中学校を卒業後暴走族に加入し、平成3年11月に自動二輪車の無免許運転により交通短期保護観察に、平成4年2月に原動機付自転車の無免許運転等により交通一般保護観察に、同年9月に軽二輪車の無免許運転により罰金7万円に、平成6年3月に共同危険行為により罰金10万円にそれぞれ処せられ、その都度家庭裁判所等関係機関の指導を受けながら、暴走族との関係を絶とうとしないばかりか、益々帰属意識を強めて、平成5年10月に本件(1)の非行を犯し、更に最後の罰金刑の1か月後に本件(2)及び(3)の非行を犯すに至ったもので、本件各非行の背景には、少年と暴走族との強い結び付きがある。少年は、平成5年5月以降定職に就かず、徒遊状態にあるが、暴走族の中で中心的存在になることで自己顕示欲求や支配欲求を充たすとともに、自分たちの暴走族の優位を脅かす他のグループを暴力で排除することを当然と考え、それを男らしいと認識するなど、暴走族の規範にしたがって行動していること、加えて、自己中心的で、感情の統制ができず、すぐ暴力に訴えるほか、規範意識に乏しく、社会性が未熟という、少年の性格を考え併せると、このままでは今後も同様の事件を起こす可能性が否定できず、少年の要保護性は極めて高いと認められる。また、少年は、平成6年3月婚姻し、間もなく、子供が生まれる予定であるが、父母に生活を依存するなど、夫として、また、社会人としての自覚に欠けており、保護者である両親は、婚姻や子供の出生による少年の自覚に期待するだけで、その監護に多くを望めないことなどに微すると、少年に対しては在宅処遇による更生を期待することは困難であると認められる。

それ故、本件(1)の事件については示談が成立したことなどの事情を考慮しても、少年の健全な育成のためには、少年を施設に収容して社会生活に適応できる能力を身に付けさせることが必要であると認められ、少年を中等少年院に送致した原決定の処分が不当であるとは認められない。

よって、少年法33条1項により本件抗告を棄却することとして、少年審判規則50条に従い主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡田良雄 裁判官 長島孝太郎 毛利晴光)

〔参考〕 抗告申立書

抗告申立書

前橋家庭裁判所高崎支部平成6年少第272号暴力行為等処罰に関する法律違反傷害保護事件

前橋家庭裁判所高崎支部平成6年少第566号傷害監禁保護事件

少年S・I

右少年に対する頭書事件につき前橋家庭裁判所高崎支部が平成6年7月21日なした中等少年院送致決定は不服であるので抗告の申立をする。

平成6年7月26日

附添人○○

東京高等裁判所 御中

抗告の趣意

原決定を取り消し、本件を前橋家庭裁判所高崎支部へ差し戻す。

抗告の理由

原決定は次の理由により処分が著しく不当であります。

少年の裁判官へ返答があがってしまいうまく回答していなかった。

少年は8月に父親になるので、短期間の少年院送致を希望します。

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